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立川反戦ビラ配布事件、最高裁で有罪確定へ [事件]

この事件は2004年1月17日の午前11時過ぎから正午ごろにかけて、反戦団体「立川自衛隊監視テント村」のメンバーの大西章寛(34)、高田幸美(34)、大洞俊之(50)の3被告が「自衛官・ご家族の皆さんへ」との表題で、「自衛隊のイラク派兵反対!いっしょに考え、反対の声をあげよう!」と書かれた反戦ビラを自衛隊東立川駐屯地の官舎の戸別郵便受けに投函したことが住居不法侵入に当たるかどうかということを巡って起こされた裁判である。

事件の経緯は、メンバーが「ビラの投函を禁止」しているという掲示があり、「関係者以外の立ち入り禁止」としている官舎の入り口から侵入し各住戸の郵便受けに投函した。そして、在宅中の自衛官に注意され、投函をやめるように言われたが、メンバーは「迷惑をかけているつもりはない」などと答え、ビラの内容に関してその自衛官に感想を要求した。それに対して住人は、「ビラの配布は禁止されている」ことを告げたが、メンバーは「ああ、そうですか」と言って立ち去ったものの、他のメンバーが配布を続けていたために、警察に通報した。また、他の棟でも、同様の状況があり、住人からビラを回収して立ち去るように言われたが、その住戸のビラは回収したが、他の住戸に投函していた。

その後、2月22日にもビラの投函が行われた。団体側は正式の抗議がないため、計画続行を決定した。それに対して住民および管理人は再度の投函は注意しているのでないと考えていた。それらのことから住民および管理人は警察に被害届を提出した。

2月27日、立川署は上記のメンバー3人を住居侵入の容疑で事務所、自宅などを捜索し、書類、パソコンなどを押収し、逮捕した。上記のメンバー3人は取り調べに対して黙秘をした。


第一審(東京地方裁判所八王子支部平成16年12月16日判決判例時報1892号150頁)は、被告人らを無罪とした(2004年12月16日、裁判長・長谷川憲一)。これに対し検察側は控訴した。

弁護人は、検察官がこの事件を起訴した目的は表現行為の抑圧あるいは被告人らの所属団体の活動を抑制もしくは停止させることにあるのであって、公訴提起それ自体が違法(公訴権濫用)であると主張したが、これは斥けている。裁判所は、「本件各公訴提起には、ビラの記載内容を重視してなされた側面があることは否定できない」としながらも、他の商業的宣伝ビラに対するものとは異なる不快感を抱いていたという居住者の感情等に着目した。

また弁護人は、被告人らが立ち入った階段や通路部分は刑法130条(住居侵入罪)にいうところの「住居」には該当しない(「住居」でないところに立ち入ったに過ぎないから、住居侵入罪とはならない)と主張したが、裁判所は「住居」にあたるとしてこれを斥けている。更に、被告人らの立入りは「侵入」に該当しないとの主張もなされた。その理由として、住居の平穏を害するものではないという主張がされたが、被告人らの立入りは入居者らの意思に反したものであることを理由に、斥けられている。ほかに、入居者らはビラ投函のための立入りについては包括的に承諾していたという主張、被告人らの立入りを拒絶する意思も表現の自由の前には譲歩すべきであるという主張もされたが、いずれも斥けられている。

以上より、第一審は、被告人らの行為は形式的には住居侵入罪に該当する(構成要件該当性がある)と判断したが、「法秩序全体の見地からして、刑事罰に処するに値する程度の違法性があるものとは認められない」として、住居侵入罪の成立を否定した(無罪とした)。被告人らの立入り行為の態様が「相当性の範囲を逸脱したものとはいえない」ことを理由に、処罰するほどの違法行為はなかった(可罰的違法性がない)と判断したものである。

上記判断にあたっては、以下のような事実が根拠とされている。

  • ビラ投函の動機が政治的意見の表明という正当なものである(自衛官に対する嫌がらせ等、不当な意図ではない)。
  • ビラが配られる頻度は低く、配り方も、昼間に少人数で比較的短時間(30分程度)に周囲の静謐を害するものではない。
  • 共用部分への立入りに止まるためプライバシー侵害の程度は低い。
  • 入居者らの反対を殊更に押切って敢行されたわけではない。
  • イラク派兵反対を唱えるビラの内容、は当時のメディアにおける反対論と比較しても、内容面・表現面において過激ではなく、他の反戦表現と比して特別の不快感を与えるものではない。
  • ビラの投函を放置することによって行動がエスカレートしていく危険はない。

ビラ投函の動機を認定するに当っては、被告人らの所属する団体『立川自衛隊監視テント村』の性格(危険性)も争点とされている。これに関して検察官は、公安情報に基づき、被告人らが左翼・新左翼団体との関連があり、その団体は自衛隊海外派遣反対などの理由で立川基地内に爆発物を発射した事件など危険な事件に関与しているとの立証を行った。裁判所は、過去、同団体の「構成員によるやや不穏当な行動もみられる」とはしながらも、上記検察官の立証事項について、「仮にこのような事情があったと認められるとしても」、同団体全体の危険性を示すものではなく、また、本件ビラの投函行為に不当な目的があったとも言えないと判示した。これに関連し、第6回公判期日の被告人反対尋問において、検察官は、被告らの新左翼との接触や、立川基地内に爆発物を発射した事件、天皇制反対運動などとの関連について質問している。これに対し弁護側は「被告がどんな思想を持っているかは事件とは関係がない」との異議を述べ、裁判長もこれを認めている。

また、本件ビラの投函は憲法21条1項により保障された政治的表現活動であって、営業活動としての表現行為に比べ「優越的地位」が認められるにも関わらず、商業的なビラの投函が放置されている状況下において、正式な抗議等をしないままいきなり検挙することは「憲法21条1項の趣旨に照らして疑問の余地なしとしない」とも指摘した。

なお、第一審の第5回公判期日(9月9日)において、弁護側証人として憲法学者の奥平康弘と元防衛庁事務次官・元郵政大臣でイラク派兵違憲訴訟原告の箕輪登が出廷し証言した。奥平は、住居侵入罪の規定それ自体に問題があることや、現在社会において受け取りたくない情報が受忍されている現状から政治的に選別して刑事事件の対象とすることは許されないなどを証言した。その一方で、治安維持法のない現代、住居侵入罪などの一般法を用いる犯罪立件は、戦前への回帰であるとの懸念を表明するなど政府批判・国家批判をおこなった。


(以上Wikipediaより抜粋)

その後、控訴審があり、その内容は下記のとおり、


控訴審(東京高等裁判所平成17年12月9日判決高等裁判所刑事裁判速報集(平17)号238頁)は、第一審判決を破棄自判して、被告人らに対し、罰金20万円から10万円の刑を言い渡した(2005年12月9日、裁判長・中川武隆)。これに対し、原告は即日上告した。

被告人らが立ち入った共用部分は「住居」ではなく「人の看守する邸宅」に該当するとしている点が第一審とは異なるが、住居侵入罪に該当する(構成要件に該当する)と判断している点は形式的には変わらない。その上で、第一審判決は処罰すべきほどの違法性はない(可罰的違法性がない)として住居侵入罪の成立を否定したが、控訴審は、そうした違法性も認められるとして住居侵入罪の成立を認めた(有罪とした)。

まず、『政治的意見の表明という正当な動機に基づいている』という第一審の判断について、被告人らの行為が表現の自由により保護されるべきものであること、及び、表現の自由が尊重されるべきことは認めている。しかし、表現の自由を理由に他人の権利の侵害が直ちに許されるものではなく、「何人も、他人が管理する場所に無断で侵入して勝手に自己の政治的意見等を発表する権利はない」から、被告人らを住居侵入罪で処罰しても表現の自由を保障した憲法21条1項に反するものではないとした。

更に、被告人らによる立入りの態様(ビラの配り方)について、第一審は「相当性の範囲を逸脱したものとはいえない」としていたが、控訴審はこれを否定した。プライバシー侵害の程度が低いことは否定しなかったものの、過去に行われていた立ち入り禁止の警告を無視し、またビラ投函の際にも対面で入居者から抗議を受けていながら後日再びビラの投函に及んでいることから、その行為が居住者の日常生活に実害をもたらさない穏当なものとは言えず、入居者等の反対を押切って敢行されたものではないともいえない、ということを根拠としている。また、被告人らのビラ投函によって生じた法益侵害の程度が極めて軽微であるとした第一審の判断も否定されている。控訴審は、ビラ投函によって、入居者らが「軽微」とはいえない不安・不快感を抱いたからこそ、立ち入り禁止の掲示等各種の対策がとられたのだと指摘する。


(以上、Wikipediaからの抜粋)

そして、今回、最高裁判所で審理が行われていたが、最高裁判所が結論の見直しに必要な口頭弁論を開かずに判決日を指定したことから2審の東京高裁判決が確定する見通しとなっている。

この事件に関して、いろいろな意見がある。『表現の自由』が公権力によって侵害されるとして高等裁判所の判決に対して反対を表明している人々もいる。また、住民の安全性を考える立場からはオウム真理教の際の坂本弁護士一家殺害事件などを引き合いに、住居およびその敷地内への関係社外の立ち入りは厳しく制限すべきだとする意見もある。

また、これに類似した事件として、『葛飾政党ビラ配布事件』がある。どちらもマンションおよびアパートなどの戸別郵便受けへの特定の思想に基づくビラの投函をする行為に関して、『住居侵入』が成立するかどうかと『言論の自由』との関係である。

そこで、私見を述べてみようと思う。『言論の自由』は憲法で保障されている。住居の安全も『生存権』などで憲法で保障されている。その保障されるべき権利と権利が衝突しているのがこの事件である。たしかに『住居侵入』の刑罰は決して重いものではないため微罪で『言論の自由』という大権を規制するのかという意見も多いが、権利には大きい小さいという考え方はしないほうがいい。権利は権利である。そして、『言論の自由』によって人は社会的な『死』を迎えることもあるが、『住居侵入』によっても人は生物学的な『死』を迎えることもある。住居前で仮にサリンとまで言わなくても人体に被害の出る化学薬品などが散布された場合、住人は死ぬか重度の障害を負うこととなる。それらを未然に防ぐために、住居(専有部分か共用部分かにかかわらず)に、住人の意思に反して侵入する行為は許されるべきではないと考える。『表現の自由』は戸別の家に投函せずとも、その近隣に張り紙をするなどの行為でも保管することが可能であり、人の生命には換えられない。また、住人が住居へ誰を招くか誰を拒むかということを決める権利は当然に持っているはずである。その権利より住居内に侵入してまで行う『言論の自由』が尊重される理由はないと考える。

まして、現代は、情報化社会の中でいろいろな媒体で情報を提供できる。『言論の自由』は広く担保されているのではないか。隣国中国のように情報統制をわが国は行っていないのだから。さらにいえば、自分たちの言論が広く受け入れられないのは、わが国が情報を統制しているからだとする意見もあったが、それはその言論が世間から受け入れられないような言論でしかないのであって、国家や公安関係が禁止しているわけでもなんでもない。

住居への侵入という問題は、無関心な人にとってはたいして問題でもないのかもしれないが、一人暮らしの女性などにとっては怖いものだ。実際、『言論の自由』を最も大事にしているはずの新聞社はその販売勧誘のために、アパートやマンションの各住戸を回っては、勧誘し、断ればドアを蹴る、大声でののしるなどという行為をしている。そんな状況で、誰かわからない人が、自分の住むアパートやマンションの共用部分を闊歩しているのを容認できるだろうか。共用部分で足音がするとびくつき、その足音が自分の住戸の前で止まるたびにドキッとする一人暮らしの心細さも考えれば、アパートやマンションの管理組合や管理人が『関係者以外の立ち入りを禁止』する気持ちもわかるのではないか。『言論の自由』は『安寧な住環境』という権利より優先される事由は存在しないと私は考える。


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