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原状回復義務に関して [不動産]

昨日、京都の弁護士グループが中心のNPO法人「京都消費者契約ネットワーク」が不動産の賃貸借における原状回復義務に関して一定の金額を前もって定めてという方式は原状回復という名目で弱者である借り手に金銭を要求することは法的にも道義的にも問題があるとして不動産管理会社長栄を訴えた。

この問題は消費者問題とも絡む問題で、少額訴訟が可能となった現状ではこの問題をも含有する問題であり、NPOが起こした訴訟でもあり社会的関心は高いようだ。しかし、この問題は弁護士グループが主張するように社会正義に照らしてというほどの問題でもないのだが。

事件の概要は下記の通りだ。


 賃貸住宅の入居契約に、退去後の補修費の一定額を賃借人負担とする条項を盛り込んだのは消費者契約法に違反するとして、NPO法人「京都消費者契約ネットワーク」(京都市)が25日、マンション賃貸管理会社「長栄」(同)に条項の使用差し止めを求める訴えを京都地裁に起こした。昨年6月導入の「消費者団体訴訟制度」(団体訴権)に基づく全国初の提訴。同NPOは、被害者に代わって業者に不当行為差し止めを請求できる「適格消費者団体」として訴訟に踏み切った。

 訴状によると、長栄は賃貸物件の賃貸借契約で入居者に賃料の2~3か月分を「定額補修分担金」名目で負担させる条項を設定。同NPOは判例が賃借人に負担させることを禁じた、通常使用による損耗の原状回復費まで負担させる隠れみのになっていると主張。

 長栄の長田修社長は「契約時にあらかじめ補修費の負担額を合意するもので一定の合理性があり、消費者に一方的に不利な条項ではない。昨年7月からは盛り込んでおらず請求には理由がない」と反論。代理人弁護士は「同法違反との原告の主張について争いたい」としている。

 一方、同NPO理事長の野々山宏弁護士は提訴後、記者会見し、「条項を復活させる可能性があり、長栄は再び使用しないと訴訟で約束すべきだ」と指摘。勝訴の場合、同社への個人の損害賠償請求訴訟で援用でき、他の業者の同様の契約を巡る訴訟にも有利な材料になる、と意義を強調した。

 ◆提訴のハードル高く、「適格」認定全国で5団体

 「適格消費者団体」になるには首相の認定を受ける必要がある。消費者の利益保護を主な活動にしているNPO法人か公益法人で、メンバーに弁護士や消費生活の専門家がいるなどが条件で、現在は全国で5団体が認定されている。今回の提訴に関係者らは、効果を評価する一方、課題があるとする。

 「消費者機構日本」(東京都)は、予備校の授業料など6件について業者側に約款の改善を申し入れ、訴訟になる前に改善させた。磯辺浩一事務局長は「制度先進国のドイツでは9割が申し入れだけで問題が解決している。団体も訴訟が起こせるという事実が改善を促す」と分析する。

 制度では、ある事案について確定判決が一つ出れば、二度と訴えを起こせないことになっている。「消費者ネット広島」(広島市)の三村明理事は「情報収集などが不十分なまま敗訴する危険性を考えると、提訴には慎重にならざるを得ない」と指摘。坂東俊矢・京都産業大教授(消費者法)は「今回の訴訟が消費者の利益になる成果を出せば今後の追い風にもなるので、注目したい」と話している。

2008年3月25日  読売新聞)

ここで注目なのは、原状回復の費用に通常使用における損耗が含まれているとする点なのだが、今回の長栄の方式は京都特有のもので、不動産業界でも異端といえ、NPOがいうように違法と言ってもいいような内容になってしまうケースもありうる。というわけで長栄もそれを現在は取りやめている。
しかし、ここで気になるのは「通常使用における損耗」がどこまで含まれ、どこからが含まれないのかという肝心の問題点に踏み込んで議論されるかどうかという点だ。
まず、「通常使用における損耗」という聞きなれない言葉だが、不動産業界ではこれを「自然損耗」という。それは大学の法学部などでも使用される用語だ。であるので、これ以降は『自然損耗』という用語を使用する。自然損耗には何が含まれるのかというのは法的な定義はなされていない。一般に通常の使用方法で善管義務を果たした上での使用でも起こる損耗と定義される。それゆえにNPOは上記のような聞きなれない用語を使っただろう。ここで、一般的ではない用語の『善管注意義務』とは何かを先ず説明しておいた方がいいかもしれないので、説明すると、民法400条などを逐条で勉強する際に使用されるが、その意味は、『債務者の職業、その属する社会的・経済的な地位などにおいて一般に要求されるだけの注意』を指します。これを不動産の賃貸に当てはめると、『賃借人は賃貸人に対し、賃借物を明け渡すまで、善管注意(善良な管理者の注意)をもってその賃借物を保管しなければならない義務』ということになり、ここでの善管注意義務は社会通念上要求されると考えられる程度の注意義務という程度の意味になる。しかし、「社会通念上要求される程度」というのはどんな程度なのかとなると説明が困難になる。社会通念上というとある意味、その当事者の常識を問う問題となるからだ。
では、それに対するガイドラインがあるのかというと、旧建設省のガイドラインがあるにはあるが、これも抽象的過ぎてその文章を読む人の立場によってどうにでも解釈できるような官僚的文章で意味をなさない。結局、判例集をひっくり返して見るということで裁判所がどう判断してきたかということから判断するしかないのだが、判例も時代によって変化してきている。
例えば、その代表的なものが、タバコの煙及びヤニの汚損に関してである。20年ほど前は喫煙権という権利が生存権の一種であるかのような通念があったころには、どれほどヘビースモーカーで部屋中のあらゆる部分にヤニがつき、それにホコリが付着して清掃費用が発生しようと、壁紙の張替えが必要となろうと、それは一般的な生活の結果によって生じたとして自然損耗とされていたが、嫌煙派が大勢を占めるようになった昨今では、自然損耗とは認められないとする判例や調停結果も出ている。
自然損耗というものは時代とともに変わる。NPOが裁判を起した事はさしたる事ではないが、これがきっかけで自然損耗に関する議論や、賃貸住宅での住み方についての議論が活発になればいいのではないかと個人的には思っている。
というのも、賃貸住宅の住み方が昨今変わりつつあるからだ。一昔前なら賃貸住宅に住んでいる人は、自分の次に住む人のことを考えて生活していた。家主が注意しなくてもモノを大事にし、住ませてもらっているという気持ちがあったが、今は違う。賃料を払っているのだから何をしても許されるという考え方の賃借人が増えている。高齢者や学生などの賃借人にはそういう人は少ないが、今の20代半ばから60代にかけて広範にわたる賃借人には所詮借り物という意識があり、自分さえよければ他はどうでもいいという考え方が蔓延している。
その証左が、あるハウスメーカーの統計資料に明示されていた。同じメーカーの同じタイプのキッチンのシングルレバーの損傷についての調査結果なのだが、戸建住宅に使用した場合の損傷率は10年目までの平均で7.2パーセントであるのに対して、賃貸住宅に使用した場合の損傷率は10年目までの平均で19.7パーセントであるというのだ。同じ商品を同じように製造して出荷していて、損傷率にこれほどの差が出る理由は、その使用方法になるというのが私の出す結果だ。自分の持ち家についているシングルレバーは丁寧に扱うが、賃貸で借家についているシングルレバーは粗雑に扱っている証左ではないかと私は考える。
他人のものなら粗雑に扱い、自分のものなら丁寧に扱うというあたりに私は人間の卑しさを見る。世の中では『ECO』という言葉が賑わっているが、モノを大事にするということが『ECO』の基本だと私は思うのだが。まずは、自然損耗に何が含まれるかという議論より、先ずは、『モノを大事に使う』という議論の方が大事ではないかと私は考えるのだが、どうだろうか。

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